患者さんの歯の痛みを治すのは、歯医者のいちばんの仕事です。
大きな虫歯でやられた歯の神経をとる抜髄は、歯の痛みを取る治療の代表といえます。
でも、明らかなむし歯もなく、歯がなんで痛いか、歯医者でもわからないときがあります。
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最近は、歯科用コーンビームCT(三次元レントゲン)や手術用顕微鏡(歯科用マイクロスコープ)を駆使して、精密な歯の検査が行えるようになりました。
特に、虫歯がないのに歯が痛い時にマイクロスコープで歯をよく観察すると、歯に亀裂が入ったことが原因で、歯が痛いことがあったりします。
また、CT画像は、虫歯の状態を三次元的に、いろんな角度からみれるので、二次元のレントゲンでは大したことがないのに、CTでみると非常に深い虫歯だったとこがわかったりします。
このように、CTやマイクロスコープによって、歯の術前評価をより細かくできるようになり、痛みの原因も昔よりは探しやすくなりました。
しかし、CTやマイクロスコープをフル活用しても、歯がなんで痛いかわからないときがあります。
非歯原性歯痛という概念もあり、たとえば、噛む筋肉や歯科治療による神経障害、副鼻腔炎、頭痛などによって、歯が痛い場合があります。
1)筋筋膜性:噛む筋肉(咀嚼筋)の筋肉痛による関連痛
2)末梢神経障害性:抜歯や根管治療による末梢神経の障害による関連痛
3)上顎洞性:鼻性上顎洞炎による関連痛(上顎大臼歯)
4)頭痛由来
5)その他:心筋梗塞など
でも、それらの要因を排除しても、原因不明の歯痛に遭遇することがあります。
患者さんも歯医者も、その痛みのとても悩まされます。
原因がわからない歯の痛みのことは、非定型歯痛と呼びます。(特発性歯痛もしくはPDAP(Persistent DentoAlveolar Pain)という用語もあります)
患者さん本人は痛みに悩まされ、歯医者になんとか痛みを取ってほしいと強く訴えますが、歯医者はなかなか原因をみつけられません。
痛みに悩まされる患者さんをみて、なんとか歯の治療で痛みを取ってあげようと思って、歯医者は慌てて歯の治療に走りますが、歯の治療は、痛みをかえって悪化させてしまうこともあります。
非定型歯痛のケースをみてみると、痛みを誘発する何かのきっかけがあって、痛みのきっかけを痛みの原因として強く結びつけようとする印象を受けます。
非定型歯痛が疑われる患者さんを対応してみて、自分もとても苦労して、歯医者としてどうすればいいか、対応に非常に悩まされました。
そこで、歯医者として何ができるかを考えたときに、以下のことが大事だと感じました。
1)歯科医としてできる最善を尽くす:CT・マイクロスコープをフル活用し、一生懸命歯に問題がないか診断する、歯に問題があれば、歯科医としてできる治療をハイレベルで提供するし、治療の必要性があっても、自分の治療レベルで解決できない問題点については、自分ではできないと患者さん素直に伝える、CTやマイクロスコープ観察でも診断がつかなければ、絶対に治療は進めない
2)信頼できるペインクリニック医をつくる
3)お薬の勉強をする:アセトアミノフェンやNSAIDs以外(三環系抗うつ薬(トリプタノール)、漢方薬(立効散)、リリカなど)の薬についても勉強する、自分で処方はしなくとも、処方を要求するか、処方をみて、薬の選択や容量について評価できるようにする
まず、歯科医としてできる最善を尽くして、あとは、一人で悩まず、痛みの専門医と仲良くなることも大事かなと思いました。
非定型歯痛については、私も一度講義を受けたことがある先生のホームページをぜひご覧ください
原因不明の歯の痛みに悩まされる患者さんに、何かと役に立つ歯医者になりたいですね。
(参考)
Atypical Odontalgia, AAOM
非定型歯痛, ラクシア銀座歯科クリニック
慢性疼痛、難治性頭痛、神経障害性疼痛の治療薬、山本クリニック
痛みの治療のために「トリプタノール」を服用される方へ、口と顔の痛み.info