歯科治療前に抗菌薬投与が必要な心疾患は?投与量は?

日本循環器学会の「2017年感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」を参考(特にページ49以降)に、歯科治療の際に気をつけないといけない心疾患についてみてみます。

抗菌薬予防投与で何を予防する?

心疾患を持っている患者さんに、歯科治療を行う場合、歯科治療による感染性心内膜炎(infective endocarditis: 以下IE)のリスクに気をつけなければいけません。

歯科治療によって、お口の細菌が、血流に流れてしまって(歯科治療による菌血症)、それが心臓の内側にある弁膜心内膜が感染して、全身に重篤な炎症症状を引き起こす病気です。

ガイドラインによると、感染性心内膜炎になりやすい基礎心疾患をリスク別に分類しています。

高度リスク群:感染しやすく、重篤化しやすい

1)人工弁置換術患者、弁輪リング装着例

2)IEの既往あり

3)複雑性チアノーゼ性先天性心疾患単心室完全大血管転移ファロー四徴症

4)体循環系と肺循環系の短絡増設術を実施した患者

中等度リスク群:必ずしも重篤にならないが、心内膜炎発症の可能性が高い

1)ほとんどの先天性心疾患

2)後天性弁膜症

3)閉塞性肥大型心筋症

4)弁逆流を伴う僧帽弁逸脱

なので、これらの心疾患をもつ患者さんの歯科治療時には、特に、高度リスク群に対しては、感染性心内膜炎の予防のための、予防的抗菌薬投与が強く推奨されています。

どんな歯科治療が危ない?

IEの高リスク群に対して、予防的抗菌薬投与が強く推奨される歯科治療には、

菌血症を誘発する歯科処置の例

1)抜歯、歯周外科、インプラント手術などの観血的処置

2)スケーリング

3)感染根管処置

4)ラバーダム装着

があります。

口腔外科処置や歯周外科処置はもちろん、歯石除去スケーリング)によっても高頻度に菌血症になるので、IEの高リスク群に対しては、予防投与が必要とされています。

また、歯髄腔・根管内が細菌感染に陥っている歯に対する根管治療感染根管処置)の場合も、抗菌薬予防投与が推奨されています。

ただ、抜髄など、生活歯髄に対する根管治療に対しては、菌血症の発症は少ないとされているので、予防投与は必要ないとされています。

お口の中の口腔レンサ球菌Streptococcus sanguinis)がIEの原因菌として知られています。

抗菌薬の投与量は?

アモキシシリン(商品名:サワシリン)が歯科では最も一般的に使われている、馴染みのある抗菌薬かと思いますので、アモキシシリンの投与量で考えると、

アモキシシリンの予防投与法

処置前1時間前に、2g

(または 30mg/kg

→ 250 mg/錠 x 8錠(!)

、女性の方は体重によって6〜7錠

です。

8錠を一気に服用するのはなかなか大変そうですね、、、、

βラクタム系アレルギー患者さんの場合の代用

1)クリンダマイシン 600mg

2)アジスロマイシン(ジスロマック) 

:500mg(2錠)

3)クラリスロマイシン(クラリス)  

:400mg(2錠)

以上、今回は、歯科治療による感染性心内膜炎(IE)のリスクとその抗菌薬予防投与について、日本循環器学会のガイドラインを参考に確認してみました!

抗菌薬予防投与が必要な高リスク群の心疾患をしっかり見極めて、本当に必要のある患者さんだけに行うように気をつけましょう(サワシリン8錠を一気に飲んでもらうのは、患者さんも、飲ませる側も、なかなかキツいです、、)

それではまた!

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