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削らない虫歯治療は、患者さんにとって、とても歯に優しく聞こえるキャッチフレーズですね。
削らない虫歯治療を目指す先生たちは、
虫歯を削らないで、虫歯の原因である虫歯菌を殺菌することで、虫歯を治す!
を謳っています。
それを達成するために、よく耳にするのが、「ドックベストセメント」や「3MIX-MP法」です。
はっきりいって、大学院で虫歯を専門的に学んだ私は、あまり聞いたこともなかったですし、でも患者さんとか、知り合いの先生に、「ドックベストセメントってどう?」とか、「3MIX-MP法ってどう?」とか聞かれると、
「なんだその怪しいやつ」
と思いながらも、「よくわかりません」としか言いようがありませんでした。
でも、実際どんなものなのか気になって、情報収集してみることにしました。
リン酸亜鉛セメントに、酸化第一銅(Cu2O)を7%含有していると言われています。(zinc phosphate products containing 7% cupric oxide)1)
リン酸亜鉛セメントは、いまや滅多に使われない歯科用セメントで、1990年代まではインレーやクラウンを歯に固定するときに使われていました。かなり時代を感じる材料です。それに酸化銅を添加した感じです。
ドックベストセメントの銅成分が持続的に放出されることで、虫歯菌を殺菌する作用があると、メーカーは謳っています。
抗生物質を3種類混合したものです。
メトロニダゾール metronidazole, シプロフロキサシン ciprofloxacin, ミノサイクリン minocyclineを用いるそうです。
これらを虫歯の奥まで浸透させるために、マクロゴールやプロピレングリコールを配合するそうです。3)
3種混合抗生物質を、虫歯のところに置いて、深い虫歯に浸透させて、虫歯菌を殺菌することで、虫歯を治すと、考案者たちは謳っています。
「ドックベスト」「3MIX-MP法」などを用いた虫歯を削らない治療のコンセプトをみてみると、
感染象牙質や感染歯髄を積極的に除去せずに、ドックベストセメントや3MIXの殺菌能力だけで、細菌感染を除去しようとする
治療です。
なので、これらのセメントや薬が、感染象牙質や感染歯髄に接している部分に関しては、その殺菌効果が発揮されるかもしれませんが、それよりさらに深い場所に、ドックベストや3MIXの薬効が、感染領域の隅々まで果たして有効に届くかというと、なんとも言えないところです。(殺菌効果が感染領域の表面にしか当たらない、お薬の浸透性があるとしても、どこまで浸透させれるか制御不能)
なので、削らないという意味では、歯にとても優しく聞こえますが、
これらで、予知性のある感染の制御ができるかというと、明らかにそうではないと思いますね。
PubMedなどで文献を調べても、ドックベストや3MIX-MP法に関連する学術文献は見当たりませんでした。
なので、自分の結論としては、あまり予知性のある治療ではないんじゃないかなと思います。
これらの治療法の成功率に関する質の高い臨床論文(ランダム化比較試験もしくはシステマティックレビュー)があれば、ぜひ教えてください。
それでは、学術的にエビデンスのある深い虫歯を極力削らないで治療する方法についてご紹介します。
歯髄(歯の神経)に近い虫歯は削らない(それ以外の虫歯は徹底的に削って除去する)治療(非侵襲的間接覆髄法 Atraumatic Indirect Pulp Capping, AIPC)ですが、以下の2つのアプローチがあります。4)
この方法、歯髄に近い虫歯だけ残して、水酸化カルシウムやタンニンフッ化物含有セメントで仮詰をして、3〜6ヶ月待って、再度開けて(リエントリーre-entry)、残存している虫歯をすべて取り除いて、最終修復を行う方法です。
3〜6ヶ月間待つ理由は、虫歯や切削刺激によって作られる象牙質(第三象牙質)が形成されることで、歯髄の露出を回避できるためです。
この方法では、3〜6ヶ月後にリエントリーするんじゃなくて、歯髄に近い虫歯以外は確実に削って取り除いて、歯髄に近い虫歯は一層残した状態で最終修復を行う方法です。
最終修復がしっかりされて、虫歯菌がentomb(エントゥーム、埋葬)されることで、細菌感染領域の栄養供給などが遮断されて、感染象牙質を非活動的にさせることを目指す方法です。
今回は、削らない虫歯治療について調べてみました。
虫歯が健全な歯に戻ってくれるといいですが、それを実現してくれる魔法の薬は残念ながらありません。
しっかり、エビデンスに基づいた虫歯治療を受けましょう!
1) Liners, Bases, and Cements: Material Selection and Clinical Applications, Dentistry Today 2005